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テネシー・ウィリアムズとポール・ボールズ 1948の旅


テネシー・ウィリアムズ回想録テネシー・ウィリアムズ回想録
(1999/10)
テネシー ウィリアムズ

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 一九四八年に戻ろう。そのシーズンのことでは記すべきことがもうすこし残っている。
 フランキーと私が、ある晩遅く外出先から帰宅してみると、アパートの表ドアの上の欄間窓が開いていて、中から興奮してかん高く叫ぶトルーマン・カポーティの声が聞こえてきた。私たちは中へ入った。
 アパートにはトルーマン・カポーティとゴア・ヴィダルと、それから婦人警察官が一人いた。当時〈ポーピープ隊)と呼はれていた隊員である。どうやらそのころはまだ仲のよかったトルーマンとゴアが、いっしょにほろ酔いきげんでやってきて、私とフランキーを待つ間、アパートの欄間窓からよじのぼって中に入ったということらしい。
 (ポーピープ隊)の婦警は、二人が窓をよじのぼっているときにたまたまパトカーで通りかかった。そこで彼らを追って中に入り、アパートの中に麻薬がないかと摸索し、ゴアとトルーマンを不法侵入のかどで抑えているところだった。
 婦警は寝室に少量のセコナール錠を発見して大げさに騒ぎ立てていた。(その当時は私も睡眠薬はほんのときたましか使わず、それも寝るときだけに限っていた)
 フランキーと私はやっとのことで彼女をなだめすかして、トルーマンとゴアの逮捕をとりやめさせた。麻薬的なものではごくわずかの睡睨薬しか見つけられなかったので、彼女はぶりぶりして出て行った。
 十二月の初めになっても『夏と煙』は、ミュージック・ボックス劇場でまだ生き延びていた。フランキーとポール・ポールズと私の三人はイタリア客船の(ヴルカーニア号)で旅に出た。この汽船は私の船旅の経験のなかでは最高のものだった。一等船室の外には一つずつベランダがついていた。私は午前中はそこで朝食をとり、仕事をした。フランキーは船室の中で眠っていた!彼は健康だった時代にはいつも遅くまで熟睡していた。
 この青年にたいする私の性欲は際限がなかった。毎晩、私は船室の彼のベッドに向かう。自分の抑えのきかぬ欲望とその結果を知っているくせに、私はフランキーとポール・ポールズとの聞に何かありはしないかと疑いをかけ始めた。もちろん何もなかった、友情だけである - それから当時の進んだ連中がたいていやっていたように、たぶんある種の大麻加工物に共通の関心があったかもしれない。私はポールズに頼まれて彼の書いた短編を読んだ。それは一、二年後に出版された短編小説集の表題にもなったもので「かよわい餌食」というのだが、私はショックを受けた。というのはたしかにおかしなことで、「欲望と黒人マッサージ師」のような物語を公刊したこの私が「かよわい餌食」にショックを受けるなどとは、ポールにはまったく不可解だったと思う。すばらしい作品だとは認めたが、私は彼にアメリカでは出版しないようにと忠告したものだ。だって私自身のショッキングな小説はニュー・デイレタションズ社から高価限定版で刊行されて、書店の店頭には陳列されていなかったからである。
 そんなことがあったにもかかわらず、このときの船旅はたいへんに快適だった。〈ヴルカーニア号) は最高の食事を出した。中国風に飾った感じのいいバーもあった。一度だけひどいしけに見舞われて、フランキーは船酔いをおこしたけれども、私はかえって痛快に感じた。
 ジブラルタル沖に着いたとき、私ははじめてポールの細君のジェーン・ポールズに対面した。この人は、私に言わせれは、今日までのアメリカの小説家中最高の作家である。途方もない意見だとお思いになるかもしれないが、私はそれに固執する。彼女の作品はどの一つを取り上げても、ユニークな感性に裏打ちされていて、カーソン・マッカラーズの作品よりさらに心に訴えかける。それから彼女自身もユーモアに富む、情愛こまやかな魅力的な女性である。もっとも、ときどき発作的に恐怖感に襲われて、奇妙に哀れっぼい言動を見せることがある。はじめ私はそれをただのお芝居かと思っていたが、まもなく本心の表われだということがわかった。と言っても、けっして誤解しないでいただきたい、私は芝居には時としてうそがあるなどと言うつもりは毛頭ないのだから。


一九七三年にスペインのマラガの女子修道院の病院で、ジェーン・ボールズが長い病の末に命を失ったとき、私たち彼女を知る機会に恵まれたものはすべて、人生に埋めようのない大きな空白ができたような思いだった。七年ほど前に出版された一巻本の彼女の作品全集には、『二人のまじめな婦人たち』というユニークな長編小説と、感性において当時のどんな作家の作品にもけっしてひけをとらぬ一連の短編小説と、ふしぎにも軽視されている戯曲『夏の別荘で』とが収められている。私はまったく幸運にもこの劇のアメリカ初演を見ることができた。ミシガン州アンナーバー市の大学付属劇場での故ミリアム・ホプキンズ主演の舞台で、その演技はまことにすばらしいものだった。
 その後、プロードウェイで、今度はデーム・ジュディス・アンダソンとミス・ミルドレッド・ダノックで演じられたときほ、ミス・ダノックはその最高に強烈な演技を見せたのに、観客はとまどいしたとしか言いようのない反応だった。
 当否はともかくとしても、私はここで、これがじつに深い感性によって貫かれた戯曲で、さらにジェーン特有の鋭く入りまじったユーモアとペーソスにいろどられていて、アメリカ演劇の作品の中でひときわ傑出したものであるという意見はなんとしてでも述ペずにはいられない気持ちである。
 私たちはジブラルタルのロック・ホテルで一夜を過ごし、翌日は大きなカー・フェリーにりっぱなえび茶のビュイッタ・ロードマスターを乗せて、タンジールに渡った。じつはポールはぜがひでも南スペインの山中をドライブしたいと言ったのだが、私が頑強に反対したのだった。あのころは、それほどの高度でなくても心臓がもたないような気がしていたし、それに一刻も早く落ちつきたかったのだ。
 私たちはタンジールに二、三日潜在してから、ロードマスターでフェスに向かった。フェスにはポールの友人の年若いアーメッドが待っているはずだった。スペイン領モロッコの国境線を越えるときはひどい目に遣った。ポールズはいつだって十個以上の荷物を持って旅行していた。それが国境のスペイン官憲の疑惑を買った。荷物は一つ一つ税関に運はれて、気違いじみたほど徹底杓に検査を受けさせられた。ものすごい雷雨の中を走らせてきたのだが、その嵐はまだ続いていた。私たちが税関の建物の中に入っているうちに、だれかがハッと気がついてみると、ブレーキがじゅうぶんにきいていなかったためロードマスターがバックを始めて、かなりのスピードで深い谷の方向へ動いていく。
 身の軽いフランキーが突っ走っていき、急斜面に達っする直前に車を停止させた。これは相当に勇気のいる仕事だったが、彼はつねに勇敢だった。ともかく、先方は私たちが旅を続けるのを許さず、私のタイプライターとポールの荷物数点とを没収しようとした。そこでやむなく、タンジールに引っ返し、ホテル・レンプラントに投宿した。
 さいわいにして私はタンジールの新聞社に友人がいた。早速タンジールとフェスとの間のあらゆる国境警備の詰所に電話をかけて、翌日アメリカの要人の一行が車で通過する予定であると通報してくれた。出直した私たちは国境線のどこででも何一つ検査を受けることなく、彼らは手を振って私たちを通過させた。
 日の落ちるころ、フェスのホテル・ジャメに到着した。私宛に来ていた郵便物の中に海外電報が一通まじっていた。私はゆううつになった。『夏と煙』は客足が落ちたので近く上演を打ち切るという知らせである。だいたいブロードウェイの劇はクリスマス前になるといつも客足が遠のくのが普通である。しかし、クリスマスであろうとなかろうと、どっちみちそう長くはもちこたえられなかっただろうと思う。
 ホテル・ジャメは世界でもっともみごとなホテルの一つに入る。サルタンの王宮のあとで、家具や調度品ももとのスタイルを戎していた。ホテルの隣には回教寺院の塔がそびえ、そのテラスでは夜の間も一定の時間をおいて静かにコーランが唱えられていた。
 だが、私は『夏と煙』の悲運にまつわるゆううつ感を振り捨てることができなかった。タンジールと同じようにフェスも気に入らず、フランキーと二人してカサブランカまで車を走らせ、船でマルセーユにわたり、そこからローマに向かうことを主張した。
 そのカサブランカ行きの車中で、フランキーはとても気むずかしくなり、私たちはけんかの一歩手前まで行った。マルセーユ行きの船はひどかった。食事はまずく、船客は不愉快でそうぞうしかった。
 マルセーユに着くまでには三日くらいかかったように思う。だがイタリアに入ったとたんに、フランキーも私もきげんが直った。
  時は一九四九年の冬、一月。フランキーと私はその後幾度もともに過ごした長いローマの滞在の第一回目を迎えようとしていた。


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