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島崎藤村の海


これからは、客船・クルーズの時代だ!といわれて久しい。
そのわりには、クルーズの乗客が増えているとは言い難い。

クルーズというと豪華、優雅なイメージが強い。
お金さえあったら、究極の「旅」のような気がする。
だから、小金ができたら、クルーズに参加する。
しかし、クルーズの旅というのは、特別に珍しいところを観光するわけでもなく、船室がホテルより特別すばらしいわけでもない。
揺れる船の中で、毎日海とのお付き合いである。
そして、多くの小金持ちは、次は、飛行機の旅へ切り替える。
その中で、クルーズのリピーターとなるのは、海がよっぽど好きか!飛行機がよっぽど怖いか!または、ノンビリとした時間の経過に憧れるか!のどれかであろう。

日本郵船の「飛鳥Ⅱ」、商船三井の「にっぽん丸」、日本クルーズ客船の「ぱしふぃっくびいなす」の世界一周クルーズは、約3ヵ月、西周りである。このほうが、時差の体への負担が少ない。

島崎藤村は西回りでフランスのマルセイユまで行き、帰りは、東周りでアフリカの喜望峰を通って神戸まで戻ってきた。
藤村の時代、クルーズとして船に乗ったわけではない。まだ飛行航路のない時代移動の手段として船を利用した。だから、特別金持ちばかりが乗船するわけではない。
役人もいれば、牧師、留学生、医者、商人、からゆきさんまで船には乗っている。


藤村は、船中で、陰険なユダヤ人男性にチクチクといじわるを言われる。
中国・朝鮮に対する日本の野心を非難され(藤村はそのことは認めているだろう)、しかし、自分たちも世界中を植民していることには無頓着でいるユダヤ人に、嫌気がさして、夜の海を見に行く。

コロンボを出向した船は、一路、アフリカの仏領ジプチを目指して、アラビア沖を航行していた。
 そこで、藤村は、海を見ながら、自分の気持ちを書き連ねる。


『海へ』島崎藤村著

日の光はアフリカの海に満ちていた。
人を避けて私は海を見に行った。
一切を忘れさせるものは海だ。
躍れ。躍れ。海よ、踊れ。
舵に近く白い大きな花輪を見るようなのは、われわれの船から起す波の泡であった。
たちまち、その泡が近い波の上へ広がって行って、星のように散り乱れて、やがて痕跡(あとかた)も無く消えて行った。
私は遠く青く光る海のかなたに、無数の魚の群かとも思われる波の動揺をも認めた。
条理もなく、筋道もない海。
先蹤(せんしょう)もなく、標柱もない海。
豊富で、しかも捉えることの出来ないような海。
何処を出発駅とも、何処を結末とも言い難いような海。
私の眼に映るものは唯、日の光りであった。
波の背に反射する影であった。
藍色の波の上に浮き揚って、やがて消えて行く泡であった。
波と波と相撃って時々揚がる水煙であった。
光と、熱と、波とは殆んど一つに溶け合って、私は自分の身体までその中へ吸われて行く思いをした。
大船の心安さ。
私は波打際の砂の上に身を置くような海から離れた心持をもって、しかも岸から窺うことの出来ない海の懐をまのあたりに近く見て行った。
巻きつつある。
開きつつある。
湧きつつある。
起こりつつある。
奔りつつある。
放ちつつある。
延びつつある。
狂ひつつある。
乱れつつある。
競ひつつある。
溢れつつある。
醸しつつある。
流れつつある。
止りつつある。
転びつつある。
陥りつつある。
渦巻きつつある。
波は波の中に滑り入りつつある。
揺れつつある。
震へつつある。
触れつつある。
撃ち合いつつある。
混り合いつつある。
逆立ちつつある。
連なりつつある。
績きつつある。
われとわがみをほしいままにしつつある。
長い廊下のような甲板から眺めると、すこし斜めに成った欄(てすり)の線があたかも遠い水平線と擦れ擦れにあって、あるいは水平線の方が高くなったり、あるいは欄の線の方が高くなったりするように見えた。
どうかすると、青い深い海はその板の間まで這上って来るようにも見えたーーー波の動揺に身を任せていた私の直ぐ足許まで。



私もいつか、クルーズ船に乗って、夜の海で、この詩を暗唱してみたい。

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