Home *  * All archives

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
tb: -- |  cm: --
go page top

5月の添乗で・・・

 ちょうど今くらいの季節だった。
 ミコノス島、サントリーニ島という人気スポットの入ったギリシャツアーだった。
 だからなのか、季節柄なのか、ハネムーン客ばかりであった。

greece2.jpg


 古いギリシャ遺跡の町々、白亜の島々などすべて回り、再びアテネに戻ってきた。
 皆、疲労感、充足感、不安感、そして期待感が入り混じっていた。
 ギリシャで最後の夕食。お酒と郷土料理!よい想い出を・・・・・・
 明日は、午前中フリータイム、午後出発でアテネの空港へ向かう。

greece3.jpg


 夜中の1時過ぎだろうか?
 寝ている私の部屋に電話がかかってきた。
 夜更けに電話がかかってくることは滅多にないが、もし電話をかけてくる相手といえばお客様しか考えられないので緊急事項に違いない!・・・と普通は思うはずだが、その頃とてもそうは思えない電話がツアーの毎に続いていた(お客様からすれば緊急事態だったのだろうが)。
 たとえば、部屋の空調の音が気になる・・・・とか
      ミニバーの精算は、今のうちにしておいたほうがいいか・・・・とか
      出ました!! というものまで・・・・・・

 わたしは、ベッド脇の受話器を取った。男性の声だった。
 「あの・・・・あの・・・・」
 その声で、誰かすぐにわかった。
 ハネムーンで参加されたちょっと口下手な彼である。
 「どうかされましたか?」と聞いても、また「あの・・・・」と繰り返した。
 
 わたしは、とっさにあることを思い出した。
 以前もあるハネムーンのお客様から夜中に電話をもらって、いきなり「コンドーム、持ってませんか?」と言われたことを!
 もしかして・・・・それでモジモジと、「あの・・・」を繰り返すのでは。

 わたしがそのことを言おうかとした矢先、
 「添乗員さん、おやすみのところすいませんが、急いで、ぼくの部屋へ来てもらえませんか!」
 と、先ほどの「あの・・・」のトーンとは別人のように、はっきりと強い口調で言った。

 私は服を着替え、そのご夫婦の部屋へ向かった。
 彼は部屋のドアを少し開けて待っていた。その顔は、幸せなハネムーンとはとても思えないくらい不安に満ちていた。
 部屋の奥の電気スタンドの脇に奥さんが静かに座っていた。

 《これはコンドームどころの話ではないな・・・・》
 
 「すいません、おやすみのところ・・・妻は呼ぶ必要はない、と言うのですが・・・・私は、心配で・・・」
 「どうかされましたか?」

 彼は、彼女の同意を求めるかのように、ちらっと奥をながめた後、

 「妻が・・・・、妻が・・・、リストカットして・・・大丈夫だ、とはいうんですが・・・僕はよくわからないから・・・」

 わたしは、奥さんの傍へいって、柄物のタオルで押さえている腕を見た。
 タオルはかなり血で変色しているようにみえた。

 ツアー中見かける彼女の表情はそこにはなかった。
 とても明るく人に気を配る方だったが、現在は、放心したように座り込んでいる。

 「大丈夫ですか?」
  うなずく。
 「お医者さんを呼びましょうか?」
 「大丈夫です。自分でわかりますので・・・・」
 彼女は答えながら、ちらっとダンナさんのほうに目を向けるのだった。

 これは後でわかったことであるが、彼女には、中高生時代に自傷の経験があった。

 わたしはご主人に少しの間、席をはずしてもらった。
 「もし、ご主人に言いづらいことがあったら、私に言ってください」
 「・・・・・・・・・・何もないです。とってもいい人です。・・・・でも、不安で・・・・」
 
 わたしは、タオルを少し開いて傷口をのぞかせてもらった。
 血が止まっているのかどうかはっきりわからないが、傷口がめくりあがっているように見えた。
 やはり、医者に見せて消毒をしてもらったほうがよいと思った。
 
 ご夫婦の了解を得て、ホテルのマネージャーに頼んで医者を呼んでもらった。
 
 静かな灯りのなかで、そのお医者さんは、手際よく、縫合し包帯を巻くと、ニコッと微笑み、2人の方をトントンと叩き、「・・・・・・・・・・」と言った。
 わたしには、何と言ったのかよく聞き取れなかった。
 が、二人が同時に私の目を見たので、答えなきゃ?!とおもい、とっさに、頭に浮かんだことを伝えた。

 「悪い想い出は切除しました、これからがスタートです」
 と言ってます。
 皆が頷いた気がした。

 
 彼女は24歳だった。彼は30前後だった。
 二人は、「見合い」ではないが、「恋愛」と呼べるほどでもない、と言った。

 どことなくぎこちない二人だったが、最後に成田空港で目にした姿は、彼が彼女をかばうようにスーツケースをターンテーブルから引き下ろし、寄り添いながら会釈する様子であった。

 その翌々年だっただろうか?
 ご夫婦から年賀状が届いた。
 そこには、赤ちゃんを抱いたお二人の楽しそうな笑顔があった。



tb: 0 |  cm: 0
go page top

この記事に対するコメント

go page top

コメントの投稿

go page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://intouch.blog56.fc2.com/tb.php/599-12ed78d6
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
go page top

新着記事+関連エントリー

カレンダー

カテゴリ

最新コメント

プロフィール

ブログ翻訳

旅行業の本

添乗に役立つ本

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。