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情報化社会の旅(中上健次)

『スパニッシュ・キャラバンを捜して』中上健次(新潮社)1986より

 
 この土地に足を踏み入れた途端、百人が百人とも衝撃を受ける、と私はインドに入る前からその衝撃を心待ちにしていた。
 情報化の進んだ現代だから、言ってみればインドに行かずとも日本で、西欧の文学者の見たインド、ヒッピーたちの見たインドを読んだり聞いたりしてすでにある程度は衝撃を受けていたのだった。
 考えてみればカナシイものである。
路上で毛布にくるまって寝ている者のいる事も「バクシーシ」と言って子供や男らが喜捨をもらおうと群がり寄り、差し出された手を何気なしに見ると瀬病を放置したせいか指の骨が溶けているという衝撃も、既に知っているのだ。

Child_India.jpg
 
 初めての新鮮な体験という気がしないのだ。

 インドについては語られすぎたきらいがあった。
 貧困と豊穣、混沌、ガンジス河、物のように放り置かれた死体を犬が食う写真。
 なるほどそうかもしれない。しかしもう人の視点で物を見るのは結構だ。
 インドに着いて、私が決心した事は、なるたけ今まで文学者やヒッピーが心ひかれてきた事に無関心を装うというものだった。・・・・・・・・・・・

Burning_ghat_in_Varanasi.jpg




 海外へ行きたいと思う動機は様々だ。
 小説、旅行記、探検記を読んで、
 一枚の写真か絵かもしれない、
 映画のような異邦人へのあこがれ、・・・・・

 未知な要素があるから行きたい。
 そこで、未知な体験に染まりたい。


 しかし、最近はどうだろう!
 大きな本屋に行けば、溢れんばかりの旅行記、ガイドブックが並んでいる。
 たとえば、つい十数年前にカンボジアのガイドブックは英語のロンリープラネットしかなかった。それが今は、ガイドブック、旅行記だけで何十冊もある。
 テレビをひねれば、あちこちで旅番組を放映している。おもしろおかしく構成された海外のクイズやビデオ番組まである。兼高かおるさんしかいなかった時代とは違う。
猿岩石に代表されるバラエティー・ヤラセ番組、知識や経験もないレポーターの絶叫番組!で、私は行く気もうせる国々だが、視聴率さえ獲得できればいいようだ。
 女性誌を中心に雑誌にも、必ずといっていいぐらい旅行・ショッピング・食べ歩き情報が載っている。
 とどめは、インターネットを開けば、すごい数の旅行記、写真、動画が瞬時のうちに見れて、まるでその場に行ったような臨場感まで味わえる。

 作家・中上健次氏が、文中で、
「初めての新鮮な体験という気がしないのだ。 」
 といったのは、1986年である。

nakagami.jpg

 その時代でも、中上氏(1992年没)はそう感じたのだから、現在のこのグローバルな情報世界を目にしたら、もう行く気は失くすのではないだろうか。
 中上氏だけではない。誰もが『想定できてしまう旅』に輝きを失うのではないだろうか。
 残っているのは、自分の旅行記を現地から、または帰国後、パソコンからアップするための顕示欲だけかもしれない。

 旅行は人に認められなくていい。
 自分のためにするのだから。
 そのためには、入ってくる情報を故意に遮断したほうがいいのかもしれない。
 自ら、未知を作り出す勇気がないと、旅のエッセンスを味わえない気がしてきた。




 
  
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