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ラングストン・ヒューズのパリ 3

ラングストン・ヒューズのパリ その1
ラングストン・ヒューズのパリ その2


*ラングストン・ヒューズ自伝1
「ぼくは多くの河を知っている」木島始訳より

 
 彼女は、これからわたしを連れていこうというホテルは、モンマルトルでいちばん安いところですよ、と答えた。
「ちっとも高くないのよ、あんた。」だが、彼女が話すにつれて、わたしは、彼女のフランス語はわたしのと同じくらいにひどいものだということがわかったので、わたしたちは会話をふたたび英語に切りかえたが、英語なら、彼女はかなりよく話せた。
 彼女は、じぶんはパリに来て、まだあまり長くはないんだということ、あるバレー団と一緒にコンスタンチノーブルから来たんだということ、それに、じぶんはロシア人なんだということを、話してくれた。それ以上のことは、彼女は、じぶんのほうからは言おうとはしなかった。
二月のしとしとと降る雨がわたしたちの顔を濡らし、わたしの靴のなかは、水でびしょびしょだった。そして彼女もまた、その薄いとはいえかなりシックなコートを着ているからといって、べつだん暖かそうには見えなかった。

phaubry4[1]

くねくねと曲がりくねった狭い通りを、あちらこちらへと何度か曲っていったあと、わたしたちは、目的のそのホテルのところにやって来た。それは、高い小ざっぱりとした様子の建物で、玄関の門はタイル貼りだった。ちっぽけな居間から、大きな身体のフランス人の女が現われた。
わたしを案内してきた少女は、その婦人に部屋のことを話した。
このかたのためにいちばん安い部屋をおねがいするわ、と言って。
「承知しましたよ、」と、その婦人は言った、「ほんとに小さな部屋がありますよ、週ぎめで五十フランなの。」
「それにしよう、」と、わたしは言った、「二週間分お払いします。」そんなに払ってしまえば、残るお金がほとんど無くなることはわかっていた。とはいえ、わたしは、どうしてもねぐらを確保したいと思っていたのだ。
 わたしは、そのホテルへわたしを連れてきてくれたことにたいしてその少女に礼をいい、こんど例のカフェで会ったときには、きっとコーヒーをご馳走するから、わたしにつきあってほしいと招待した。
わたしたちは、プラース・ブランシュで別れた。そしてわたしは、もうこれで置いておく場所ができたので、預けてあったかばんを受けとりに駅へ出かけていった。部屋代とかばんの預かり賃とを支払ってしまうと、わたしの手もとには、ちょうどコーヒーにロールパンという食事を一週間つづけてゆけるだけの金がのこっていた、・・・・・一回の食事にコーヒーとロールパン一個いがいには何も取らないでいるとすればの話なんだが。
 わたしは、とてつもなく空腹だった。
そして地下鉄でかばんをあずけた駅に着くのに、かなりの時間がかかった。

montmartre-thumb[1]

わたしはその夜、九時頃に、しとしとと降る肌寒い雨のなかをホテルにもどって来た。わたしの部屋の鍵は、玄関の棚に掛かってはいなくて、例の女家主が階上へいくようにと指さしたので、わたしはそのまま上っていった。荷物のかばんをさげて、長いこと上ってゆかねばならなかった。で、わたしは、踊り場にたどり着くたびに、ちょっと休むために立ち止った。朝から晩まで、口に入れたものといっては、クロワッサンが二個きりだったから、空腹のあまり弱りきっていたのだと思う。
じぶんの部屋に着いたとき、わたしは、ドアの下から洩れている明りを見かけたので、もしかしたらじぶんの部屋の番号をまちがえちまったのかもしれんぞ、と思った。わたしは、ためらい、それからノックをした。
ドアが開き、例のロシア人の少女が立っていた。
「ハロー!」と、わたしは言った。
ほかに、どう言ったらいいのか、わたしはわからなかったのだ。
「あたしが先に帰ったわね、」と、彼女は言い、そして、微笑んだ。

russia.jpg




  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく

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