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ラングストン・ヒューズのパリ 2

 
*ラングストン・ヒューズ自伝1
「ぼくは多くの河を知っている」木島始訳より


ラングストン・ヒューズのパリ その1

 かれらは、わたしをじぶんたちの競争相手のミュージシァンだと思ったのだ。
わたしは、答えた。「何にも。ただ、ふつうの仕事を探してるだけですよ。」
わからないといった面持で、別のひとりがたずねた。「タップ・ダンスをやるのかね、それとも、何か?」
「いや、」わたしは言った、「船から降りたばかりなんですよ。どんな仕事だっていいんです。」
「頭がどうかしてるんじゃないのかい、え、きみ、」と、ひとりが言った、「ここには、『どんな仕事だっていい』仕事なんてものは、ないよ。ふつうの仕事なら、フランス人だって、わんさといるぜ。ジャズがやれるとか、タップ・ダンスが踊れるとかいうんでなきゃ、さっさと故国へ帰ったほうがいいってもんだぜ。」
「まったくだな、」その食卓についていた他のものたちが、同意した。
「ここには仕事はないよ。」
 だが、かれらのうちのひとりが、あるホテルを教えてくれた。「この通りの向う側へいってみな。小さな部屋を、安く求められないかどうか、当ってみりゃあいい。」
 わたしは、出かけていった。だが、そこは、わたしにとっては高かった。アメリカの金で、一日ほぼ一ドルもした。とはいえ、その夜を明かすためには、その部屋を借りないわけにはゆかなかった。
やがてわたしは、パリではじめての夕食をたべた - ブフ・オ・グロ・セルに、砂糖をかけたクリーム・チーズだった。
湿気と雪解けのどろどろ道 - それというのも、降っていた雪がもう嫌な雨に変わっていたからだが!だったにもかかわらず、わたしは、パリがいくらか好きになりはじめ、パリのことを親しく感じるようになった。

montmartre[2]

 つぎの日、わたしは、英語が通じるところへならどこへでも - アメリカの図書館や大使館、アメリカの通運会社や新聞社などーー仕事を探しもとめて、出かけていった。
どれもこれも、だめだった。それに、あなたは身分証明書をもってなければなりませんよ。でも、まあ故国に帰ったほうがいいでしょうね、とわたしはすすめられた。パリには、失業者がたくさんいますからね。
「五ドルじゃ、故国に帰れませんよ、」と、わたしは言った。
 みんなは肩をすくめて見せて、そのまま、じぶんたちのやってることをしつづけた。
わたしは、あちらの通り、こちらの通りとさまよい歩いた。二日目が来て、午後もおそくなった。わたしは、モンマルトルに引きかえし、わたしのホテルの前の、前の日に行った例の小さなカフェに出かけていった。
というのは、わたしはその夜もうそのホテルには泊れなかったからだ、ーーー もう一度、部屋代を払いこまなければ。そして、もしもう一度また同じ部屋を夕食つきで取ったとすれば、わたしには、わずか四ドルそこそこの金しか残らなかっただろう!
 わたしのかばんは、そのときもまだ駅にあずけたままになっていたので、着替えをする清潔な服がまったくなかった。
雨がびしょびしょと降っており、わたしは寒くひもじかった。
その日まる一日の食事といっては、コーヒーとロールパン一個しか取ってはいなかった。わたしは気分が悪かった。

わたしほ、その小さなカフェの食卓の前にぐったりと腰掛けると、今度もまた、カフェ・クレームとクロワッサンとを註文したーーーその日二度日の同じ註文だった。わたしは、そのクロワッサン(細長い、湾曲した、フランスのロールパン)を食べた。そして、いったい、どうしたらいいかなあ、と思った。
明日になったら、どこかで働き口を見つけるために、たぶんリッツとかその他どこかの大ホテルか、でなければどこかプールヴァールで大きな建物が建てられているのを見かけたその場所で、じぶんのフランス語を試してみようと決心した。ことによったら、れんが屋の下働きぐらいには使ってもらえるかもしれない。
 その日の午後も暮れて、湿っぽい陰気な夕暮れに移ってゆくにつれて、カフェは込みあいはじめていた。
背の高い黒人の若者が入ってきて、表面が大理石で貼られているわたしのいるテーブルの前に、腰をおろした。かれは、ブランデーを註文し、わたしに、ドミノの勝負をやらないか、と尋ねた。
いや、遠慮するよ、ぼくは安い部屋を探してるんだ、とわたしは答えた。
かれは、それならおれが月ぎめで泊っているホテルがいいよ、とすすめてくれた。しかし、ふたりで計算してみると、そのホテルというのは、その通りの向い側の例のホテルと同じくらいの値段で、わたしには高すぎた。ぼくの言ってるのは、べらぼうに安い部屋のことだよ、とわたしは言った。暖房が入ってるかとか、湯が出るのかとか、床にはカーペットが敷いてあるのかとかといったことは、このさいどうだっていいんだ、ただ眠る場所さえありゃいいんだよ、とわたしは言った。するとかれは、きみのいうような」そういう安いホテルなど、知らないね、と答えた。

 ちょうどそのとき、ひとりの女の子が、彼女は赤みがかった金髪をしていて、壁にそって置かれていたベンチにすわっていたのだが、思いきって話しかけてき、こう言った。
「ホテルを探してるんですって?」
「そうだ、」と、わたしは言った。
「ひとつ、あるわ、高くないのよ、」と、彼女が言った。
「どこなんだい?」と、わたしは彼女にきいた、「で、どれくらい?」
「ただも同然よ、」と、彼女は言った、「高くないわ!ほんとうよ!案内してあげるわ。さあ。」
 彼女は、薄いコートを着ると、立ち上った。わたしは、彼女について行った。彼女は、丸くて蒼白いスラヴ風の額と、大きな黒い瞳をした背の高くない娘だった。その頬には、かすかに紅がふいてあった。
雨に打たれてしおれてしまった羽板飾りのついているぶどう色の帽子を、彼女はかぶっていた。彼女は、美しかったが、穿いていたスリッパーは、かかとのところがすり減っていた。わたしたちふたりは、黙って丘を登ってゆき、プラース・プランシュを横切り、ルピック通りの方角に歩いていった。

montmartre__paris[1]

とうとうわたしは、彼女にフランス語でこう言った。ぼくは、ほんの少ししか持ちあわせがないんでね、だから、部屋といっても、それこそほんとうに安いものでなきゃだめなんだよ。
でなきゃ、食べるための金がなくなっちまうんだ。だって、仕事をもってないんだから。
仕事もなければ、仕事の見つかる見こみもなかった。それに、わたしは、ミュージシァンではなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つづく

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